墓石で夢が見られるか 藤井寺球場跡地訪問の記録
これ、墓石やん…
かつて野球場があった場所に立ち、心の中でつぶやいた。
その場所は、大阪府は藤井寺市、近鉄南大阪線 藤井寺駅前を指す。
オリックス・バファローズの前身球団のひとつ、近鉄バファローズが1950年から2005年までホーム球場および2軍球場として使用した近鉄藤井寺球場が存在した場所だ。
跡地の一角に、単身者用冷蔵庫ほどの大きさの記念碑がぽつんと建っているのだが、私には、記念碑というよりも墓石に見えてしかたがなかった。
合言葉は「フジーデラ行こうや」
藤井寺駅に来るのは20余年ぶりだ。
近鉄を応援していたのは、私が中学生だった90年代半ば。当時の思い出はこちらにも書いた通りだ。新聞屋の集金時には近鉄主催試合の招待券をたくさんもらえたし、お金をかけずに楽しめる行楽地でもあった球場に親しみを込めて
「フジーデラ行こうや」
と合言葉のように家族・友人と誘い合って通った。
97年、球団が大阪ドーム(現・京セラドーム大阪)に本拠地を移し、その後私は進学のために上京したことでフジーデラ通いに幕が下りた。
01年のリーグ優勝のよろこびも束の間、続く球団消滅・合併~フジーデラの解体の報せは全て東京で受けた。大阪と東京は、悲しいことから目をそらすには十分な距離で、また卒業・就職というライフイベントも重なり、私は野球観戦から離れていった。
フジーデラはどこ
そんな野球離れ期を経て、15年のタフィ復帰以来、観戦を再開することとなりブランクを埋めるごとく試合やイベントに参加するようになった。
そういえばフジーデラは今どんな感じになっているのだろう。
世間の「平成最後に〇〇する」ブームにも巻かれ、18年末、帰省ついでに球場跡地に行こうと思い立った。
天王寺から近鉄電車に乗り込む。これは昔と同じルートだ。そこから準急で約15分。藤井寺駅は商店街アーケードと、その地名と同じ寺社がある住宅街だ。街の規模と距離感を大雑把に東京で例えるならば、天王寺は新宿、藤井寺は国分寺といったところか。
さて、電車を降りて、かつて心躍らせて通ったフジーデラに出発…
しかし、足が進まない。
フジーデラは駅からすぐ、線路沿いにあった。球場がどっちにあるかなんて考える必要もないほどの立地だったが、球場建物が丸ごとなくなったため、どの出口から行けばよいかわからない。通いなれたはずの藤井寺駅で迷う。ショックだった。
戸惑いながら駅員さんに方向を教わり、歩き始める。
昔、観戦前に食料を調達したファストフード店。試合がある土日は店先で賑やかな女子高生バイトが販売していて、お客から「ねーちゃん、おもろいから吉本はいり」といったやりとりがされていたりした。
しかしお店を見て、懐かしい気持ちになるかと予想してたが、特別な思いは湧かなかった。
何かがおかしい。
降りる駅を間違えたか、と思うレベルの違和感を抱きながら歩いていく。
5分もしないうちに大きなマンションと学校が現れた。そこが、かつてフジーデラこと近鉄藤井寺球場が建っていた場所、らしい。
「らしい」と表現したのは、冒頭の記念碑以外に、野球場があったことがわかるものが一切なく、本当にフジーデラに来たと実感できなかったからだ。
ホームベースがあったおおよその位置すらわからずに、舗装された道をとりあえず歩いていく。
跡地を一周してようやく見つけた墓石こと、記念碑。
画像ではわかりにくいが、墓石のサイドには「白球の夢」と書かれたプレートもはめられているのだが、
「フジーデラは夢やったんやで」
と言われているような気持ちになってしまった。
これ以上ここにいても仕方ないと感じ、無表情で藤井寺駅をあとにした。
白球の夢は、優勝の夢
球場跡地では「無」の心境だったが、少し時が経った今、心の底から湧き上がるものを感じている。それはずっと目をそらしてきた、球場がなくなったことに対する寂しさと怒りだ。
フジーデラは夢などではなく、確かにあの地に存在して、いろんな経験をしたのに。
記念碑を墓石呼ばわりするために跡地訪問したわけではなく、かつて通った野球場を懐かしみ、新しいシーズンに向けて気持ちを高めるのが目的だったのに。
この気持ちをぶつける先はどこだろう。
球場を思いだせるものが微塵も残っていないこと。
ポツンとたてられた記念碑。
本来墓石でないものを墓石だと感じてしまう要素を、過去ではなく現在に見出すとすれば…
それはオリックス・バファローズが優勝から遠ざかっていることではないか。
昔フジーデラで近鉄を応援していた私が、いろんな偶然や機会に恵まれて観戦を再開し、
今オリックス・バファローズを応援することになって見てみたい「白球の夢」は「優勝の夢」なのだ。
今のバファローズが勝ちを重ねて、前向きに球場跡地と、墓石ではない「記念碑」を訪問できる未来が私は欲しい。
2019年シーズン、明るい白球の夢を見させてほしい…
西村新監督、たのんどきます。
記録はつづく